お米づくりにこだわる理由
安全なだけではダメ、おいしいだけでもダメ
私たちにとってごはんは主食で、ほとんど毎日毎食、食べるものです。一生のうちで一番たくさん食べる農産物がお米だといってもいいくらいです。だったら少しでも健康に良さそうなものを食べたいと思うのが普通です。
でも、ただ健康に良いというだけで”毎日食べたい”かと聞かれるとそんなことはなく、おいしくなかったら続きません。食べ物である以上、”美味しさ”にこだわるのは当然のことです。
「農家がこだわりをもって育てたお米を毎日あたりまえのように食べてもらう」、これが高山農園のお米作りの目標です。
農薬を使わない栽培って割とたいへん
稲は品種改良を何度も繰り返され、昔と比べると低肥料で大きな穂を実らせるようになりました。そのかわり、病害虫に弱く、雑草などにも養分獲得競争で負けるようになってしまいました。そのため安定した品質のお米を作るためには、除草剤、殺虫剤、殺菌剤などの農薬が欠かせません。
通常の稲作で、種もみの準備から収穫までに使用する農薬成分(農薬に含まれる化学成分)は約20成分です。そこから使わなくても何とかなりそうな農薬を減らしていきます。そうすると最終的に残るのは除草剤です。どの農家さんに聞いても除草剤だけは欠かせないと答えるくらい、その効果は絶大です。
無農薬栽培をしていると一番困るのは水田内の雑草で、栄養を取られて収量も食味も上がりません。手で田んぼの雑草取りをすることがあるのですが、これほど無駄できつい仕事はないと思えるほどの重労働です。梅雨明けの炎天下、毎日8時間、腰をかがめて泥の中を歩く・・・。これが1回の除草剤で解決されます。
無農薬栽培は始めるのは簡単ですが、続けるのは難しいです。除草方法はたくさんありますがどれも効果があるというのではなく、自分の田んぼの特徴をよく知って、その田んぼに合った除草対策を確立しないといけません。
本に書いてある通りのことをやっているのに上手くいかない、というのは当たり前のことです。田んぼによってその特徴や条件が違うので、除草対策をしなくても全く草の生えない田んぼもあれば、いくら機械除草をしても草のなくならない田んぼもあります。時にはやり方を変えるというのも1つの手だと思います。
使わないじゃなく、使う必要のない工夫
ただ農薬を使わないだけだと、今まで農薬で抑え込んできた障害が発生します。
私たちは日常の健康管理のために「手洗い」と「うがい」が大切だとよく言われます。いわゆる「予防」というもので、これが無農薬栽培では重要な要素になります。病気だけでも何種類もあり、雑草もいろいろなタイプがあります。これらすべてを農薬以外の方法で回避しようということです。
例えば、
- ・稲に感染する病原菌というのは湿気が大好きなので、通気性をよくするために植え付けの株間を広くする。
- ・病気や草に負けないように稲自体を強くする。
- ・雑草を「取る」のではなく、「生えないようにする」「生えても大きくならないようにする」
- ・害虫の被害を減らすため、栽培期間そのものをずらす。
- ・雑草が生えてきても問題ないくらいの成苗を植える。
など考えればいろいろあります。
毎年の栽培を振り返って、こういった工夫を何度も繰り返し改善していきます。継続は力で、力がつくからより継続できるようになります。
試行錯誤をする”余裕”が無いとなかなか難しいです。
おいしいお米はむずかしい
農家さんだったら誰しも考えることですが、”おいしいもの”を作るのは難しいです。
理由は簡単で、一人ひとり味覚が違うのですべての人に「おいしい」と言ってもらえるものはまずありません。そのため、高山農園では食感が異なる様々な品種のお米を栽培しています。
お米の注文も1品種に偏るということが無いので、”お客様一人ひとりに合わせたお米作り”というのもおいしいお米作りの考え方の一つだと思います。「自分の味覚に合うからおいしいお米」ということです。
もう一つは味です。お米の主成分はデンプンで、デンプンは唾液と混ざるとすぐに分解されて糖分になります。これが甘味として認識されます。砂糖みたいに甘いという感じはしませんが、このほのかな甘味成分がないと「ぼそぼそしたごはん粒を食べている」ような感じがしておいしくありません。
米粒にデンプンをしっかり詰めさせる、吸水率が高いお米にする、といった栽培への取り組みがおいしいお米へとつながるのだと思います。
稲は自然が育てる
私たち農家は”稲を育てる”のではなく、”稲が育つのを手助け”しているだけです。
例えば、有機肥料とは私たち人間に例えると「栄養」ではなく、「食べ物」です。一度分解されないと栄養として吸収されません。
稲は胃や腸がないのでどうやって分解しているかというと、田んぼの微生物がやっています。菌類や小動物、水中生物が食べ、糞や死骸となって最終的に植物が吸収できる栄養にまで分解されます。私たちがやっているのは、稲に養分をやっているのではなく、田んぼに住んでいる生物に餌をあげているだけです。
その他にも、お米の味を良くするのに稲の出穂(稲の穂が出る)時期を遅らせるということもやっています。穂が出てからの成熟期は暑いと弱ってしまうので、お盆過ぎの涼しい時期に出穂するように工夫しています。どんなに「味がよくなる肥料」を使っても気候にはかなわないので、稲が快適になるように調整してあげます。
「生き物を大切にし、自然をよく知る」といった、いままでの現代の農業にはなかったことも勉強していかないといけないと実感しています。
高山農園には目標があります
高山農園のお米の出荷方法は、個人のお客様への直接販売を主にしています。そのため、お米の評価というのが私どもへ帰ってきます。
JAやお米屋さんに出荷したのでは得られない、私どものお米を食べていただいた方の大切なお言葉です。種から育てて収穫したお米を食べていただく、自分が作った料理を食べていただいたことのある方だとわかると思うのですが、褒めていただけるとたいへんうれしいものです。いまいちというお言葉もいただきます。
そのお客様の言葉が目標になり、毎年良い評価を得られるよう、ご満足いただけるよう努力する目的が生まれます。ただ稲作をやっているというのではなく、目的をもって栽培に取り組むことでより良いものが作れるとおもいます。こだわるからこそお米づくりは面白いのです。